今回は昔の仕事の話をしたいと思います。
銀行のマーケット部門で花形といえば、為替ディーラーです。
こんな感じの仕事です。お客さんの注文を受けて為替取引をしたり、自分の相場観でポジションを取って、儲ける仕事です。FXで馴染みがある人も多いと思います。銀行の金を使ってFXでバクチを打つ仕事です。
電卓みたいなキーボードで、世界中の銀行と取引できます。
為替ディーラーは儲かるのか?実情は?学生だけど、今から目指しても大丈夫?といった情報を書いていきたいと思います。
Contents
スポット取引ディーラーは儲からない
ぶっちゃけるともう「スポット」の為替ディーラーは儲かりません。
スポットというのは、いわゆる1ドル=103.76円など、ニュースでよく出てくるレートです。一番流動性があります。日銀によると、2020年は1日当たり4,566百万ドルの銀行間取引が東京時間に行われたようです。だいたい5,000億円くらいですね。
銀行は、メーカー、保険会社などお客さんの注文を取り次いで、銀行間で取引をします。
「円を100万ドル分ドルに交換したい!」ってね。
為替ディーラーはその注文を、他のメガバンクや、外資系銀行との取引でカバーして、収益を得る仕事です。
為替ディーラーというのは、1銭でも安く取引できる銀行や取引先を探す仕事です。
さて、ここで問題です。
インターネットの発達で取引レートが透明性を高める中、そんなナメたレートで取引してくれる銀行があると思いますか?
FXをやっている方ならわかると思いますが、FXですら、ドル円は売値と買値が1銭程度しか離れていません。銀行間取引でも、まあだいたいそのくらいのスプレッドです。なので、個人投資家であろうとプロのディーラーであろうと、条件はあまり変わりません。(ディーラーに損をさせる気満々の海外中銀みたいなやつらがいるので、むしろマイナス)
個人投資家なら、自分の好きなタイミングで好きなポジションを持てますが、プロのディーラーは、意図しないタイミングで持ちたくもないポジションを持たされることも多々あります。
他の取引は儲かるかもしれない…けど期待は薄い
他の取引というのは、①先物取引や、②マイナー通貨の取引です。
①先物取引は、1か月後などの為替レートを売買する取引のことです。
ニュースなどで流れている為替レートは、スポット取引(2日後にドルと円を交換する取引)なので、1か月後や3か月後に交換するレートについてはブラックボックスです。
なので、まだ儲けやすい土壌はあります。
この先物レートについては、ドルと円の金利差、年末ドル需要などが影響しますが、それでも、たかが知れています。驚くほどは儲かりません。
マイナー通貨(タイバーツや、シンガポールドル)だって、ググれば為替レートなんてすぐ出てきます。そこから、0.2%でも外したレートを出した途端、顧客から「こいつボッタくってるな」というフィードバックがもらえます。なかなか世知辛い世の中です。
どうやって為替ディーラーって儲かるの?
為替ディーラーが儲けようと思ったら、自分の相場観を取引に絡めるしかありません。
例えば、ドル円が上がりそうな時に、ドルを円に交換したい(=ドル円を売りたい)という顧客が来た時に、他の銀行と取引せずに、取引を呑みます。
そうすると、ドル円をその顧客から買ったことになります(これをドル円のロングといいます)。
こうして、ドル円が予想通り上がった時に、ロングを手仕舞えば、収益が出ます。
この繰り返しで為替ディーラーは儲けるわけです。
ボタンを押して、ロングやショートのポジションを取れる個人投資家に比べ、有利な点は、
①顧客の取引フローが見える
②他の銀行や証券会社のディーラーのポジションがわかる
③顧客のストップロスを無理につけに行くことができる
④仲値で儲ける
くらいしかないと思います。
とはいえ、コンプライアンスの観点から、情報共有や顧客との利益相反については厳格になっており、②~④については、今はもう不可能です。僕がディーラーだったころももう無理だったんじゃないかな。
昔は、ドル円ディーラーは、仲値(9:55レート)の注文を裁くだけで儲かっていたようですが、今は顧客との利益相反からフロントランニング(顧客の注文が来る前に先回りしてポジションを取る行為)を禁止している銀行が多いです。
そのため、今スポット取引のディーラーで儲けているのはほんの一握りだと思います。
儲からなさすぎるため、リストラが行われ、取引のほとんどは機械(AI)に置き換わってしまいました。機械は取引ミスしないしね。
ディーラーは忙しいの?為替ディーラーの一日
むちゃくちゃ忙しいです。日中忙しいというより、ロンドンやニューヨークの時間にレートが動くので、電話が夜中によく鳴ってました。
05:30 起床
07:00 会社に到着し、NYのトレーダーと情報共有。朝ミーティングの資料作成。
08:00 朝ミーティングで、相場観の確認、大商いがある場合の情報共有。
08:30ー09:55 仲値取引のオーダーを集計して、9:55の仲値レートを提示
10:00ー11:30 仲値のオーダー集計の再確認。ドル円の場合は、9時~11時が最も取引が多い。先輩ディーラーの取引を手際よくシステム入力していく。
11:30ー12:00 昼飯。昼飯中にも注文が来る可能性があるので、だいたいデスクで弁当。
12:00ー15:00 あまり動かない時間帯。若手は企画業務などに取り組む。先輩ディーラーはたいてい寝てる。
15:00-17:00 夏時間なら、欧州勢が起きてくる。この時間帯からドル円、ユーロドル、ポンドなどが動き始める。東京勢と欧州勢の時間が被るため、大相場になることもしばしば。
17:00ー19:00 本日の取引が全て正しく入力されているかの確認。銀行のシステムと数値があっているかのチェック。これがまた合わない。数値が合わないと、合うまでシステムをすべて確認させられる。この仕事が一番きつかった。19時に終わればマシ。
19:00-帰宅。帰宅しても、ポジションを持っていたら相場が気になってついレートをみてしまう。
22:00-就寝。ただし米国時間に大きく相場が動くことが多いので、相場が動いたらニューヨークのディーラーから電話がかかってきて、目覚めることもしばしば。ノーポジで寝れるときほど幸せなことはない。
儲からないディーラーは日中のポジションを深夜まで持ち越すことになります。
とはいえ、寝てる間に為替レートが大きく動くと困るわけです。
そのため、「レートがここまで動いたら電話してね」というコールオーダーを置いて寝るわけです。
つまり僕が深夜に電話が良く来ていたということはそういうことです。
面白そう!為替ディーラーやってみたい!
やめたほうがいいです。
今はスポット取引は95%以上が機械(AI)による取引です。
人が関わっている取引はほとんどありません。メガバンクですらそうです。
つまり、マーケットの中でも、人間を必要としない、斜陽産業です。
FXで為替に興味を持って、チャレンジするにはやりがいのある仕事だと思いますが、反射神経勝負なので、体力的に、30代まで生き残れるディーラーは僅少です。
20代のペーペーでも、個人の裁量で数十億円のポジションを持つことができたので、その意味では胆力はついたと思います。まあ、負けても自分のお金じゃないしね。
ですが、「今から為替ディーラー戻る?」と聞かれたら全力で断ります。将来性がなさすぎます。その次のキャリアの展望も難しいです。為替の営業をやるくらいか。
上司・先輩に口酸っぱく言われたこと
・プロとして収益が出ないなら、個人で稼ぐのは無理。
・こんな恵まれた環境で、勝てないなら、〇んだ方が良い
・必死で勉強しても勝てるかわからない世界で、勉強しないやつが勝てるわけがない。
この辺りは、今の僕の指針として生きています。