さて、前回までは機関投資家の投資行動についてコメントしてみました。
リスクの取り方については、リスクが取れる順番に、
年金・政府系ファンド→保険会社→銀行
だったという話をしたところです。
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機関投資家は仮想通貨を買うの?
さて、仮想通貨についても少し考えてみます。
2020年12月、米系生命保険会社マスミューチュアルがビットコインに投資したというニュースが出ていました。
キャッシュフローを生み出さないプロダクトを買うインセンティブは、値上がり益を取るということ以外にありません。なので、普通に考えたら「ナシ」です。長期投資の一環として、ポートフォリオに組み入れることは一般的にはありえません。
が、そうでなくなる状況が存在します。
機関投資家は投資ポートフォリオ全体のリスク・リターンを見ながら投資します。
その時に、現在の投資ポートフォリオと、仮想通貨の値動きの相関が、小さかったり、逆相関だった場合、仮想通貨をポートフォリオに組み入れることが一部正当化されます。
例えば、ビットコインと株の相関が低い場合、株100%のポートフォリオに、ビットコインを一部入れると、リターンをそこまで落とさずにリスクを落とせます。つまり、リスク・リターンの改善です(これをシャープレシオ改善と呼びます)
キャッシュフローを生み出さないコモディティ(金・原油)のポジションを機関投資家が持っているのはこういった理由です。そのコモディティの中に、ビットコインが許容されるのは遠い世界ではないと思います。
とはいえ、まずは小さい額からでしょう。マスミューチュアルのニュースも、24兆円の資産に対して、100億円の投資でした。
しかしながら、この流れは保険会社、年金基金から少しずつ加速していくと思います。
機関投資家は現物で買うの?
現物投資は厳しいと思った方がいいです。管理できません。
なので、一般的にはグレイスケールが提供するようなファンド形式でしょう。その他、CME(シカゴ取引所)が提供しているビットコイン先物取引です。
機関投資家の参入には、金融商品仕立てにする必要があります。彼らが欲しいのは、ビットコインそのものではなく、ビットコインの値動きが複製できる金融商品です。むしろ、仕組債なんかにしてもらえた方が、債券の資産の中に混ぜ込めるのでリスクが取りやすいとすら思われます。
折しも、本日からイーサリウムの先物取引がCMEで始まりました。
これまで投資対象にし辛かったイーサリウムも、先物取引の開始により、機関投資家の参入がより容易になると思われます。グレイスケールは売却制限があったりするしね。
銀行は仮想通貨を買うの?
結論から言うと、今は無理です。
銀行の自己資本比率を算定するBIS規制(バーゼル合意)上、仮想通貨が定義されていないからです。
バーゼル合意(バーゼル規制)とは、世界中の銀行のリスクを同じ枠組みで比較できる仕組みです。ローン、株、債券、オペレーションなど、銀行ごとに異なる様々なリスクを一律のルールに基づいて評価できるようにする規制です。
つまり、銀行が仮想通貨を保有するとき、バーゼル規制上、定義が存在しないので自己資本比率を算出できなくなります。なので今は無理、という回答になります。
まあ、そもそも日本の銀行法上、コモディティの現物は持てません。
しかしながら、バーゼル規制を作っているバーゼル銀行監督委員会も、仮想通貨については認識しており、今後、規制が変わることも考えられます。そうなってくると、銀行が仮想通貨を持ち始める時代が来るかもしれません。
(と言いつつ、最新のバーゼルiiiですら2010年公表、完全実施2027年とかいう気の遠い話なので、まあ、20年以内にそんな時代が来たらいいねって感じ)
その他、仮想通貨を買いそうな機関投資家は?
ヘッジファンド、ファミリーオフィスは、もうすでに相当参入が進んでいると思います。
ヘッジファンドにもいろいろ種類がありますが、様々なプロダクトを売買して利益を出すマクロファンド、現物と先物の鞘を取るアービトラージ型、ニッチな商品に着目するオルタナティブ型などのファンドは仮想通貨のリスクテイクを既に始めているでしょう。
ファミリーオフィスというのは、富裕層の資産運用を行うファンドです。先祖の遺産で飯を食う仕事です。地方の地主が不動産管理会社を持っていることが多いじゃないですか、あれです。相続税と所得税を軽減するために、資産管理会社を設立するのが一般的です。
ここは、資金調達が必要ないので、運用制限も運用目標も緩いことが多く、リスクも相当に取ることができます。仮想通貨投資も相応に行っているでしょうね。やはり金を自前で用意できるところは強い。
その他、小ネタ、Q&A
①仮想通貨に金利はつかないけど、レンディング?で金利もらえるのでは?
あれはただ仮想通貨でローンを出してるだけだから!
結局ローンの貸出先のリスクを取っているので、仮想通貨関係ないです。仮想通貨でリスクを取って、そのまた貸出先に対するリスクを取る…。リスクが高すぎるので、機関投資家が入ってくることは当面ないでしょう。
②仮想通貨のキャッシュフローはゼロだけど、マイナス金利の債券に比べたらマシでは?
あれは、結局のところ、
債券の金利よりももっと低いマイナス金利で資金調達できるから、買ってるだけ
です。1%でお金借りてきて、2%の利回りの債券を買ったら1%儲かるよね、ということをマイナス金利の世界でやっているだけです。
ちゃんと元本で返ってくる見込みのある債券だからこそ、この手法が使えるわけであって、仮想通貨と混同してはいけません。
③デジタルカレンシーなら銀行が持てるのでは?
日銀が発行元となって、デジタルカレンシーができるのであれば、銀行は持てますね。
そもそも現在、銀行間のお金の送金は、「日銀ネット」という日銀の提供するシステムで決済しているので、その意味では、デジタルカレンシーですね。
これは、土日は決済できないし、お金の数値が増減するのも日銀に口座をもっている銀行の口座だけなので、それを拡張して、24時間決済/個人の口座間でも決済できるようにすればデジタルカレンシーになります。
日銀が発行元になって、すべてのデジタルJPYを日銀が保証してくれるのであれば、1デジタルJPY=1JPYとして銀行は保有できると思います。ブロックチェーンであるかどうかは関係ない。まあ複製リスクを考えるとブロックチェーンかなとは思います。
④仮想通貨のリスクを機関投資家が持つには?
機関投資家は「金融商品」でないとリスクを持つのに抵抗があるので、株や債券の形であれば、仮想通貨のリスクを取りやすいです。
一番わかりやすいのは、取引所の未公開株への出資。ビットフライヤーもSMBC, みずほなどの子会社のベンチャーキャピタル会社からの出資を受けています。
非上場企業の取引所へのローンもわかりやすい例ですね。運転資金の提供など。
⑤SBIは?銀行なのに仮想通貨持ってるじゃん!
SBIは、子会社で仮想通貨を持っています。銀行の子会社の形であれば仮想通貨が持てます。銀行としては、子会社の「株」を持っているだけなので、子会社が資産をどう持ってようと銀行業としては問題ないわけです(あくまで一般論です)。
(まあ持ってないことも露呈しましたが)
株の形で持つか、ファンドの形で持つか、ローンの形で持つか、仮想通貨業界への機関投資家のリスクの取り方は様々だと思いますが、唯一言えることは、機関投資家は、現在は仮想通貨そのものではなく、周辺業務へのエクスポージャーを増やしている段階です。(カストディ業務、取引所業務、など)
機関投資家が安心して仮想通貨そのものに投資をするには、まだ時間がかかるでしょう。
まとめ
機関投資家もそれなりに仮想通貨業界に参入してきたのが2020だとすれば、今年はもっと発展する年になるのではないかなと期待しています。
引き続き、面白い話題があればネタにしていきます。